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第38話 大庭遥2

 父親が広報担当として顔出しをしている遥を見つけ、会社にまで金の無心にきたのだ。  遥は自分の人生を好転させるために、父との縁を切りたがっていたが、父に説明しても、わかってもらえないどころか、脅された。  ──誰に育ててもらったと思ってるんだ!  遥から金の匂いがするのを敏感に嗅ぎつけてくる父親を、無下にすることはできなかった。少なくとも、同じ土俵に乗っただけでは、父を遠ざけることはできない。見栄っ張りで、金遣いが荒く、将来の展望もない、欲深い男だ。遥は事務所からの借金の返済を終えたにもかかわらず、今度は父親から毎月一定の額をたかられる生活をせざるをえなかった。  父に脅されていることが明るみに出ることを恐れた遥は、考え抜いた末に一世一代の賭けに出る。  日本支社の総務部で働いている支社長の娘、有咲真冬と結婚を前提とした交際をはじめることにしたのだ。支社長の娘との結婚がかかってくるとなれば、見栄っ張りの父親のことだ。おいそれと酷い行いはできないはずだと踏んでの遥の行動は、正しく作用した。  真冬との縁談が進んでいることを仄めかすと、毎月給料から幾ばくかを援助金として支払うことを約束した遥に対し、父は急にへつらうようになり、表立って会社などには現れなくなった。金づるを逃す手はないと踏んだのだろう。自分の血はどこまでも汚れていると遥は思いながら、一方で胸をなで下ろした。  遥が真冬に目を付けたのには理由があった。彼女は美女で性格も良かったが、隠れ腐女子で重度のゲーマーだったのだ。ひょんなことからその事実を知ってしまった遥は、そこに目を付け、彼女のハマっている十八禁BL恋愛RPG『ベータはアルファの誓約に』をやり込み、数少ないそのゲームのファンである隠れ腐男子として、嘘をついて真冬にアプローチした。

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