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第39話 大庭遥3

 結婚の約束まで順調に進み、プロポーズを終えた翌週、真冬があらたまって逢いたいと言ってきた。遥がいそいそと真冬のもとを訪れると、それまで手を切ってきた男女との不適切な関係をリークした資料が回ってきた、と言われ、潔癖を証明できなければ、破談にすると言われた。重ねて、身辺調査で浮かび上がってきた遥の表裏のある素行と金の流れについても詳らかにされ、父親とのいびつな絆も提示された。  調査をしたのは、字井永一朗という、真冬の幼馴染だった。  真冬をものにし、父親の支配から手の届かないところへ行こうと必死になっていた遥は、どうにか言い逃れようともがいた。  そんな時だった。  遥は、字井に言われることになる。 「愛してないだろ」  と。  たった一言、そう言われた時、遥はとっさに答えられなかった。字井は遥の調査を真冬に依頼されただけあり、遥の不誠実さの証拠はどれも誤魔化しのきかないものばかりだった。  とどめに真冬を愛していないだろう、と問われ、遥は返事ができなかった。 (愛って──何だ?)  遥の頭の中にあったのは、疑問だった。  字井は言った。 「どんな過去があろうと、真冬はお前を受け入れる覚悟を決めていた。もしも、お前に愛があれば。だが、お前にあるのは自己保身だけだ。相手を思いやる心が見られない。お前、本当は真冬のことも、誰のことも、……自分自身でさえ、愛してないんじゃないのか?」  その一言に、長年、遥がつくってきたはずの城は脆くも崩れた。

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