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第40話 大庭遥4
「お前はいったい、何なんだ? 愛を騙って真冬を惑わして、いったい何がしたい? お前が欲しいものは真冬じゃない。何が欲しいのか、ちゃんと考えろ。そして愛することができる人間を、……自分のことを、ちゃんと愛してやれ」
字井は確かに、そう言った。まるで自分が傷ついたような顔をして。その弾みによろけた遥は、突然、今までしてきたことが猛烈に恥ずかしくなった。そこで、何だか理屈の通らない言い訳めいた言葉を繰り返し発したような気がしたが、誰もその言葉を聞いている者はいなかった。
焦りと苛立ちから身の潔白を言葉にするほど、白々しく響くだけだった。
遥の声に真冬は涙すら見せなかった。字井に止められなければ、遥と真冬だけだったら、あまりの恥ずかしさに、そのまま真冬を殺そうとしていたかもしれない。
遥は、そのまま真冬の家を出た。
冬の、雪が舞い散る夜だった。
愛って何だ──。
愛ってそんなに偉いのか。
愛さえあれば、なんて嘘じゃないのか。
愛があったって、自分は愛されなかった。
なのに愛なんて、信じられるわけがない。
信じられないものを、与えることなどできようはずがない。
幼き頃の薄れかけていた記憶がおぼろげに出てきて、遥は立ち止まった。母の白くなめらかな手。いい匂いがする腕の中。父の穏やかな背中。ずっと目を背けてきた、家族の形。
それが段々遥を挟み、いびつに縒れて傷ついてゆき、歪んだまま引き裂かれた絆は、結局元には戻らなかった。
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