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第41話 大庭遥5

 遥は愛されず、愛を与えられないまま、子どもだった自分を何とかかき集め、人としての形を成そうと、ひとり努力しなければならなかった。  そこに愛はない。  ただ、生きるのに必死だっただけだ。  生き残るために生き残ろうとし、愛されることを知らないまま大人になった。愛し方などわかるはずがなかったから、そんなものは不要だし、存在しないと決めつけた。なぜなら愛が存在したならば、なぜ自分はそれに値しなかったのか。それを知るのが怖かった。  だから、愛など誰にもわかるものではないと思い込んだ。  自分だけが特別なのではない。周りを見ても、愛なんてものに目覚めている人間がいるようには思えなかった。きっと愛なんておためごかしのハリボテで、中身などないからみんなが焦がれるのだろう。だったらその空虚なものを、与えてやるフリをしてやればいい。  相手に嘘の夢を見せ、愛を囁いてみればいい。  そう振る舞ってみせたら、そんな遥に夢中になる者たちがたくさん現れた。  誰も彼も、遥に愛を囁かれて、堕ちた。  だから、遥は、それこそが愛なのだと思った。  なのに、今さら自分を愛せだの、わかったふりをして、わけのわからないことを言う人間がいることが怖かった。  まるで言葉の通じない異国にひとり投げ出された気さえした。愛を信じていなければ、そんな言葉は出てこない。  そして、そんなものを信じている人間がいることが、遥を悪酔いさせた。

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