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第42話 大庭遥6

 ──気持ち悪い……。  きもちわるい。  きもちわるい。  きもちわるい。  まるでそれまで意識しなかった何かが、腹の中に黒い澱として溜まっているのがわかるようだった。  それが遥をえづかせた。  何か巨大なものが、胸をせり上がってくるが、どうにかそれを止めようとしても、まるで思うようにいかない。  怖い──。  逃げるしかない、と思った。  様々な感情が入り乱れ、遥は気がつくと、真冬からも字井からも逃げ出していた。  底冷えがするアスファルトを駆け、急き立てられるかのように上下六車線を徒歩で横断しようとして、走ってきたトレーラーに蹂躙され、その一生を終えた。  それから、長い間、旅をしている。  終わりの見えない旅だ。  生まれた自分が捨てられた意味を知りたくなかった。  捨てられるほどの価値しか、遥には、きっとなかったのだろうから。  自分に対する愛なんて、紙切れほどの重みもなかった。

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