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第48話 夜の訪問者6

「何の握手なんだ?」 「お前を知るための握手だ」 「何だ、それ……」  可笑しくなって吹き出して笑ってしまう。くすくすやっているうちにウィリスがその手をぐいと引き、くすぐったがっているハルの肩をそっと抱いた。 「っ」  着衣越しの温もりが、じわりと伝わってきて、息を呑む。そのまま背中をトントン、と労わるようい叩かれると、胸の奥にモヤモヤとしたものが湧いてきた。 「な、何して……」  ハルは動揺した。ウィリスの仕草は、どこか情愛が込められ、今まで触れたことがないほど温かだった。 「何って、そうだな。お前を慰めている。オメガだというだけで、毎日この身体に幾千もの傷を負っているお前を」 「な、何で?」 「理由が必要か?」  そうじゃなくて、いきなりどうしてそんな気分になったのかが知りたかったのだが、ウィリスの腕の中にいると、次第に力が抜けて、余計なことを考えられなくなってくる。  代わりにまた、先ほど感じた滲むような胸の奥のモヤが膨らみ、安らかなだが、どこか緊張を孕んだ気分になった。背中を撫でられていると、どこか懐かしいような気がして、目の奥がつんとする。 (泣いちゃだめだ……、ウィリスがせっかく抱きしめてくれているのに)  そう思えば思うほど、今まで張り詰めていたものが一気に緩まる。 「……っ」  すうっと一筋、ハルの頬に涙が伝い、その瞬間、高鳴っていた胸の奥が縒れるように痛んだ。

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