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第59話 恋情2

 まるで未来を予期させるかのように、ウィリスはハルに甘くなった。それはオメガに対するアルファの甘さ以上に、ウィリス本来の性質が出たものと解釈して間違いないだろう。  だからこそ、ハルはウィリスの問いに頷かなかった。代わりに過去にキスをさせたり、決闘ごっこをさせて煽ったアルファたちに言うのと同じ台詞を、震える喉から投げかけた。 「きみとしたのは……おれが突発発情したからだ。それ以上でも以下でもない。きみだって、男のオメガは初めてだったんじゃないのか?」 「それは……」  ウィリスが戸惑っているのが手に取るようにわかる。ハルは密かに唇を噛んだ。寝た相手が冷たくなるのは、気がないせいだと一般的には思うだろう。  だが、未練の残る相手だからこそ、冷たくあしらわねばならないこともある。 「確かにオメガは初めてだった。でも、それは理由にはならない。だろ?」 「お互い初めてだった。それだけのことだ」 「ハル……」 「お互い、正気じゃなかった。だろ?」 「……」  先ほどから目が合うと、また例のキスを問うダイアログが出ていた。全部を「いいえ」で消しながら、ハルはウィリスを巻き込んでしまった罪悪感に潰れそうな心を握りしめていた。 「わかった……無理は言わない。冷却期間を置いた方がいいこともあるしな」  ウィリスはため息とともに、再びハルの金髪を撫でた。その指先がハルを蕩したことなど忘れてしまったかのように、泣きたくなってしまうほどに、柔らかな仕草だった。 「離れがたいのが俺だけでないと思いたい。ハル……」  ウィリスはしばらく髪を弄んでいたが、やがて跪くと、ハルの汗で濡れた髪の一房に口づけを落とした。

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