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第60話 恋情3
「お前を何とも想っていなかった時など、もう思い出すこともできない。本当だ」
優しい手つきに胸がきゅっとなる。目の前にろくでもないダイアログが何度も表示されるたびに、ハルもまた、ウィリスのことを考えてしまうのを止められなかった。
「おれは……、おれは、わからないから、きみのものになるつもりはない。なれないんだ」
さよならを切り出すために開いたはずの口から、自分でも思ってもみなかった本音が出てしまう。
「何がわからないんだ……?」
「……愛、が、……」
──愛してないんだろ。
心臓に手を当てると、あの声が蘇ってくる。愛が何なのかわからないまま、転生を繰り返して、誰かと寝ても、やっぱりわからないままだ。それを思うと自分が哀れに思えてきて、声が詰まってしまう。
「……おれは両親にさえ、失望されて。優秀なアルファを連れてこなければ、何のために生かされてきたのか、その意味がなくなる。ラインボルン学院で一番優秀な血筋のアルファが誰なのか、卒業までに見極めて、そいつを手に入れないと、また失望させることになる。それは嫌なんだ」
「……」
「だけど、めぼしいアルファを見つけたところで、どうアプローチすればいいのか。昔、ある人に愛について問われたことがあるが、未だにおれは、その意味を解くことすらできない。だから」
──おれは、愛がわからない出来損ないなんだ。
ハルの言葉を、ウィリスはまるで聞き漏らすまいとでもするように、押し黙ったままじっと聞き入っていたが、やがてベッドサイドに座ると、「少し、いいか」と言った。
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