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第66話 羨望と憧憬と4
「ハル、ちょっとここにサインをくれ」
「サイン? 何の?」
釈明の機会を奪われたことに眉を寄せたハルは、ウィリスを睨んだ。声をかけられただけなのに、ふわっと意識が飛びそうになり、心臓がぎゅっと緊張する。
ウィリスは「そう怖い顔をするな」と少し言い淀んだあとで、ララとハルに向かって声を潜めた。
「いずれ明らかになるだろうから、今、言ってしまうが、ルームメイトの変更手続きと、つがいの仮申請書を出すつもりだ」
「えっ」
「は?」
同時に声を上げたララとハルを見たウィリスは、少し決まりの悪そうな顔で、制した。
「大きな声を出すなよ。いずれ噂になるとしても、こういうことは、なるべく淡々と進めた方がいいんだ」
「ちょっと待て。どうしておれがきみと……」
つがいの仮申請書なんて、ハルとしか出せない書類だ。それをなぜ、今、ウィリスが出そうとしているのだろうか。
「ララ。少しハルを借りられるか?」
「あ、はい。大丈夫です……」
ウィリスは比較的冷静なララからハルを引き剥がすと、誰にも話を聞かれないよう、廊下の奥まった隅まで引っ張っていった。
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