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第67話 羨望と憧憬と5

「……あんなことがあって、ずっと考えていたんだ。お前をあのまま放っておくのがいいことなのかどうか。あの時はたまたま相手が俺だったが、もし別のアルファだったら? 俺は耐えられない。お前は俺の、少なくとも大事な友人だ」  友人、との言葉に、それまで舞い上がっていたハルの気持ちがふっと着地した。  ウィリスはさらに言い募った。 「あくまで仮契約を結ぶだけで、誓って許可なく触れたりしないし、うなじを噛んだりもしない。卒業までの間だけ、もちろんお前のアルファ探しの邪魔はしないし、正式な相手が決まったら、ちゃんとこの仮契約は破棄して、身を引くつもりだ。だから、これにサインをくれ。ハル」  滲んだ声でそこまで言われて、ハルはピコン、と視界の端に現れたキスを問うダイアログを消すのを躊躇った。ウィリスの好感度も日々刻々と、目が合うたびに変化しているが、ダイアログはあくまで数値の変化を報せるアラートに過ぎない。ウィリスが何を考えているのかを知る手がかりにはならなかった。 「形だけのものだ。約束する」  真摯なウィリスの態度に、苦悩の痕跡が見える。  しかしそれは、あくまで友情に基づいたものであり、ハルを好いてくれているから、というわけではないのだ。 (いや、友人だと言われるだけでも、おれは嬉しい)  報われない恋情を抱きながら、ウィリスを最初に振ったのはハルだ。だとしても、卒業後も友人としてウィリスとかかわっていけるのなら、もっと喜ぶべきなのだと思った。胸の奥では恋心がじくじくと膿んで、失望に近い気持ちが湧いてきているが、ハルはそれを無理矢理ねじ伏せた。

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