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第70話 視線1

 もしかすると、受理を拒否されるかもしれない、という一縷の望みを断ち切るように、ウィリスの提案は学院側に歓迎の意を持って受け入れられた。 「アルファとオメガを同室にするなんて、学院長は寮の風紀をどう考えているんだ?」 「仮とはいえ、つがい申請を出したからな。お前がひとりでアルファの群れの中にいるのを見ると、こっちがハラハラする。だから、ちょうどいいと思ったんじゃないか」 「それは、そう、かもしれないが……」  荷物を移動させ、整理しながら、ハルが言う文句にもウィリスは冷静なものだった。先日肌を重ねた時の熱を、欠片も匂わせないウィリスの態度に、ハルは感謝しながらもどこか拍子抜けした気持ちでいた。 「何かあれば助けるから、つらければ言えよ、ハル」 「あ、ああ……」  それどころか気を使ってくれるウィリスに、ハルは素直にお礼を言えたらどんなに救われるだろう、と思った。ツンデレ属性のせいで、ウィリスへの態度は未だに補正がかかる。どんな言動に変換されるかわからない今の状態では、数パーセントのデレに賭けるより、沈黙する方がいくらかマシだった。 「そういや、トーリスとララが同じ部屋になったって言ってたが」  謝意のかわりに、先日ララから聞いた情報を振ると、ウィリスは頷いた。 「ああ。ララだけをひとりにするのが心配だったからな。トーリスと一緒なら、リンチの心配もいらない」 「きみ、おれのために無理してないよな?」 「ん……? お前がおいたをするかどうか、見張る気持ちはさらさらないが?」 「お、おれだってララを虐めようなんて、今さらもう思わないよ。そうじゃなくて……あの時は、ふたりで、その、し、しちゃったことは、不可抗力だったって、前にも言っただろ? おれのために自分の気持ちを曲げる必要はないんだぞ? それに、おれは……」

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