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第72話 視線3
「なっ、きみだって……! うちのアリサと何話してたんだよっ」
「アリサ様? 彼女とは梅昆布茶の話しかしていない。そうじゃなくてだな」
ウィリスは言いかけて、無駄だと悟ったらしくため息をついた。
「いや……。それよりも、もう二度と独りで危ない真似はしないでくれ。何かあれば呼んで頼ることを覚えてもいいはずだ。これからは、建前だけとはいえ、俺たちは仮のつがいってことになるんだからな」
「わ、わかった。……善処する」
正直、頼るということがハルは苦手だと思った。それにハルに向けられる優しさは、本当ならララが受け取るべきものだったのだとじゃないかという疑念と後悔が、ハルの中にはある。
だが、もう決めてしまったことだ。仮とはいえウィリスとつがいになれてしまった。実質的には友人止まりだが、ララのことを想うと沈む気持ちも、ウィリスとの新しい生活のことを考えると、どこか浮き上がり、そわそわと気もそぞろになる。そんな自分を戒めたらいいのか、認めてもいいものなのか、ハルにはわからなかった。
ウィリスの言葉は時々、わけのわからない飛び方をするが、他のアルファから守ってくれるのは正直、ありがたいことだった。次期風紀委員長候補だけあり、腕力も強いし、喧嘩もできるし、頼りになる。ボディガードとして百人力だ。
本来、ウィリスの加護を受けられたはずのララにも、トーリスが関わることになるのなら、そんなに悪い状況を作り出しているわけではないのかもしれない。
頭を整理しながらぐるぐる考え事をしていると、不意にウィリスがこちらを見ていることに気づいた。こういう顔を、ウィリスは時々することがある。何を考えているのか、わからない、表情が読めない不思議な顔だ。
「何だ? ウィリス」
「ん?」
「きみ、よくおれのことを見ているだろ。言いたいことがあれば言うといいと思ってな」
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