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第73話 視線4

 ウィリスが仮とはいえつがい申請書を出す決断をしてくれたということは、少なくともハルを嫌ってはいないはずだ。なら、このまま穏やかに友人付き合いを続けられるかもしれない。ウィリスに無理に取り入らなくても、輪姦破滅ルートを回避するぐらいはできるかもしれなかった。 「いや……、お前は凄いと思っただけだ。オメガとしての矜持を捨てずにアルファの群れの中にい続けるのは、並大抵のことではない。少し……尊敬する」 「そ、そうか……?」  素直に褒められると照れくさい。自覚し立ての恋心と相まって、挙動不審になりそうだったハルは、ウィリスから窓へと視線を転じた。 「お前のことを、つい目で追ってしまうのは美しいせいだ。尊敬と憧憬が入り混じって、俺にも正直、よくわからない」  ウィリスはまるで独り言のように呟くと、照れて俯いた。そしてまた思慮を巡らせている顔をする。  窓が少し切ってあるせいで、ウィリスの赤髪がさらさらと風を孕み流れてゆく。ハルはそんなウィリスの無防備な横顔を眺めながら、もう慣れっこになってしまった胸の奥の疼きを、遠く意識していた。

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