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第74話 フレデリック・レイス・モーリジィ1
ウィリスと同室になってから、ハルは独りで考える時間が減った。
朝起きて、着替えて、ともに食事をし、授業を一緒に受け、消灯の見回りにウィリスが出かける以外は、ほぼずっと一緒だ。
今までひとりアルファの群れの中で、彼らをどう操ったり揶揄ったりするか、計略を巡らせるのに忙しかったが、ウィリスが隣りにいてくれることで、他のアルファに対する警戒心を抱く時間が激減し、安心できるようになったのは、我ながら大きな変化だった。
そうなると、いかに日々緊張を続けてきたかがわかり、ぬるま湯に浸かることに慣れてきた頃には、寝坊をしたり、忘れ物をしたり、そそっかしい面があるのだと、ララやトーリスにまで驚かれたりした。
「ハルは見かけによらずです」
と、ララなどに逆に揶揄される。
だが、その適度な距離感が心地よかった。
アルファのロイエンバーム兄弟と、ベータのララと、ともに過ごすうちに、周囲も新しく変化した人間関係に慣れてきたのか、ハルに対する接触は、誰が言い出したわけでも、こちらが要求したわけでもなく、基本的にウィリスを通すようになってきた。
食堂でパンを頬張りながら、四人で冗談を言い合う時間が増え、そうして昼食を摂ることを周囲が容認し出した時に、それは起こった。
「久しぶりだな。ハル・ロゼニウム・ガーディナー」
ライ麦パンに文句をつけながら昼食を食べていると、ハルのはす向かいのトーリスの隣りの席に、やたらと身体の大きな生徒が、どっかりと腰を下ろした。
粗野な身振りでその生徒が息を吐くと、彼の隣りのトーリスだけでなく、ウィリスとララもが気配を緊張させた。ウィリスを通すことが暗黙の了解になっていた、ハルへの接触を堂々と行い、ギラついた色目を使い睨んできたその生徒は、最上級生の三年生と同じ色のネクタイを結んでいた。
「フレデリック・レイス・モーリジィ先輩」
口が勝手に開き、その名を口にすると同時に、ハルは心がぎゅっと縮まるのを感じた。
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