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第77話 フレデリック・レイス・モーリジィ4
詰め寄るウィリスの眸が、不安と緊張と嫌悪と憤怒を宿していた。初めてのキスを奪わせたことを後悔しているなどと、今さら言えるわけもなく、ハルはウィリスに圧倒されて一歩後ろへと下がった。
その距離を、ウィリスが詰めてくる。
「どこまで許した。俺と同じようにさせたのか? 最後まで、中に出すまで──……」
「っ違うに決まってるだろ!」
ウィリスにされたあの幸福な記憶に、モーリジィへの嫌悪感が混じるのを、ハルは拒絶し、怒鳴った。
だが、ウィリスはハルに、苛立たしげに詰め寄る。
「どうだか。あの調子で距離を詰められたら、お前なんて一瞬で食われるぞ。本当に何もさせてなんだろうな?」
「しつこい! させ、てなんて……っ」
「ないのか? 本当に?」
ウィリスはハルの頤を持ち上げた。指に力が入り、目が合っても逸らせなくなる。強引な態度に少し怖くなり、ハルは警告の声を上げた。
「ちょっ、ウィリス……ッ」
「あの馴れ馴れしさは他人のそれじゃない。隠し事をするなと言ったよな? それとも……」
「やめろよ! きみには別に……っ」
「関係ないか?」
傷ついた顔で言われると、そうじゃないと否定したくなる。けど、否定は駄目だ。モーリジィに仕方がなかったとはいえ、初めてのキスを譲ったことを、自分が汚れた存在であることを、悟られたくも知られたくもなかった。
「……確かに大したタマだな。アルファを手玉にとるんだから……。お前が誰と何をしようと、俺には関係ないかもしれない。だが、仮にもつがい申請を出した相手には、せめて貞淑なふりぐらいはしてくれ」
その言葉を聞いた刹那、カッと血が上った。
バシッと音がして、ハルは手を上げてしまった自分に気づいた。
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