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第83話 クリケット大会3

 一時的に試合が中断され、選手たちはそのままだ。ラインボルン学院の林は例外なくよく手入れされており、芝生に混じって丈の低い下草が所々、木々の周りに生えている。 「確か、この辺りに……」  できるなら、モーリジィに逢いたくない、逢わないまま済ませられるなら、と心の奥底で願いながら、ハルは下草を急いでかき分け、飛んでいったボールを探しはじめた。  すると、やにわにハルの背後で野太い声がした。 「探し物はこれか?」  大きな体躯のどこにそんな器用さがあるのか、すぐ後ろに立たれるまでわからなかった。ハルが振り返ると、モーリジィが大きなグローブのような手の中に包み込むようにして、緋色のボールを持っていた。 (きた……!) 「ああ、よかった。モーリジィ先輩」  ハルは明るく安堵した演技をして、目的を達するために、モーリジィを振り返った。 「ボールを探していたんです。返していただけませんか? 試合の最中に飛んでいってしまって。探していただいてありがとうございます」 「ふん。俺はこいつに昼寝を邪魔されて、機嫌が悪い。欲しけりゃ、手を出してみるんだな」 「……わかりました」  ハルはモーリジィのいる方へと歩み寄り、右手を出して笑顔をつくった。 「どうもありがとうございます」  一刻も早くボールを携えて、選手たちの待つフィールドへ戻りたい。慄きを表出させないよう気をつけながらモーリジィと会話を交わすと、ピコン、とダイアログが開いて、好感度の値が変化したのがわかった。

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