86 / 179
第86話 クリケット大会6
「バットを持ってこい!」
両手両足をそれぞれモーリジィの手下の一人ずつに押さえられたハルは、火がついたように暴れ出したが、四人分の体重を跳ね返す力はなかった。
そうこうしているうちに、木製のバットを受け取ったモーリジィは、グリップを確かめるようにしてそれを握った。
「反抗的なオメガには、お仕置きが必要だよなぁ?」
モーリジィのだみ声に、六人いる上級生たちが呼応する。
「いくつで根を上げるか、賭けるか!」
「いいぞ!」
「やれやれ!」
バットを持ったモーリジィが大仰にそれを振り上げると、周囲から「ひとぉつ!」と数える声が上がった。
その、刹那。
鋭い警笛が周囲に鳴り響き、同時に男子生徒たちのものらしき鬨の声が上がった。かと思うと、林のあちこちから、試合を放棄し、バットを振りかざした二十名ほどののクリケット選手たちが、モーリジィたち不良生徒の群れに向かって、突然躍りかかった。
これにはさすがのモーリジィ派もたまげたらしく、あっという間に周囲は怒号の飛び交う戦場と化してしまう。
「何だっ! お前ら、どこから……っ! ぐあっ!」
モーリジィが顔を上げた瞬間、その首元に、鋭い音をさせたウィリスの蹴りが入ったのがわかった。
「ハル!」
「ララッ?」
もんどり打ったモーリジィが芝生に転がるのを、トーリスを従えたウィリスが、もう一人の同級生とともに包囲しようとしている。その隙をついてララがハルの手を取り、「こちらへ! 早く!」と素早く騒ぎの中心から抜け出した。
背後では酷い乱闘がはじまっていた。
ともだちにシェアしよう!