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第86話 クリケット大会6

「バットを持ってこい!」  両手両足をそれぞれモーリジィの手下の一人ずつに押さえられたハルは、火がついたように暴れ出したが、四人分の体重を跳ね返す力はなかった。  そうこうしているうちに、木製のバットを受け取ったモーリジィは、グリップを確かめるようにしてそれを握った。 「反抗的なオメガには、お仕置きが必要だよなぁ?」  モーリジィのだみ声に、六人いる上級生たちが呼応する。 「いくつで根を上げるか、賭けるか!」 「いいぞ!」 「やれやれ!」  バットを持ったモーリジィが大仰にそれを振り上げると、周囲から「ひとぉつ!」と数える声が上がった。  その、刹那。  鋭い警笛が周囲に鳴り響き、同時に男子生徒たちのものらしき鬨の声が上がった。かと思うと、林のあちこちから、試合を放棄し、バットを振りかざした二十名ほどののクリケット選手たちが、モーリジィたち不良生徒の群れに向かって、突然躍りかかった。  これにはさすがのモーリジィ派もたまげたらしく、あっという間に周囲は怒号の飛び交う戦場と化してしまう。 「何だっ! お前ら、どこから……っ! ぐあっ!」  モーリジィが顔を上げた瞬間、その首元に、鋭い音をさせたウィリスの蹴りが入ったのがわかった。 「ハル!」 「ララッ?」  もんどり打ったモーリジィが芝生に転がるのを、トーリスを従えたウィリスが、もう一人の同級生とともに包囲しようとしている。その隙をついてララがハルの手を取り、「こちらへ! 早く!」と素早く騒ぎの中心から抜け出した。  背後では酷い乱闘がはじまっていた。

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