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第91話 涙の理由3
「ウィリスがハルを気遣ってくれたお陰です。だから、お礼ならウィリスに」
「そうそう」
「俺たちゃ、兵隊だからな」
「でもモーリジィ派の奴ら相手に、派手にやったよな?」
「おう、やってやったぜ」
「日頃の恨み、はらさでおくべきか、ってやつだな」
「ざまあみろだ」
誇らしげに語る彼らの声には、ひとつとして慢心や計算がなかった。相手チームの選手たちも、スポーツマンシップにのっとり、再試合をしようという意気込みを、ウィリスに対して持ちかけていた。
「っ……」
ハルは彼らの声を聞いて、胸の奥がぎゅっとなった。
こんなアルファを、ハルは知らなかった。オメガはアルファに従属すべきもので、対等になどなれないと最初から思っていた。
しかし、彼らはハルというオメガを、今、守護すべき対象とみなしている。その視線は、同じようにハルにまとわり付き、絡んでゆくが、どこか温かみがあるものだった。
(ありがとう……)
ハルは、心の中で再び唱えた。
お礼をちゃんと言えることが、こんなにも嬉しい。周囲のアルファたちに敵愾心を抱かなくていい瞬間を、初めて体験したハルは、心の奥にわだかまっていた大きな塊が崩れる音を聴き、拳を心臓の上に当て、静かに握りしめていた。
今、体験しているようなことは、ベータであるララとも分かち合えるものかもしれなかった。
(それにしても──……)
これだけのアルファを統率してのけるなんて、ウィリスは本当に侮れないアルファだ。
間違っても敵には回したくないな、とハルはその背中を見ながら、強く感じていた。
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