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第92話 パリスの罠1
手当てを受けた選手たちが競技に戻ることになり、ハルは補欠として登録し直され、もうしばらく大事を取って救護室にいることになった。
「お前の分まで頑張ってくるから、頼むから今度こそ大人しくしていてくれよ、ハル」
ウィリスはそう言い置くと、みんなと一緒に救護室を出ていった。ぞろぞろと引き上げてゆく選手たちと入れ替わりに、パリスが入ってくる。
「やれやれ、騒がしいと思ったら、またきみか、ガーディナーくん。いや、他人行儀は止そう。ハルと呼んでも?」
「パリス先生」
現れたパリスと視線が交錯した瞬間、ダイアログが出たのを速攻で消す。パリスがどんなに愛想のいい顔を見せても、ゲームの内情を知るハルにはどこか不気味なものに見えるのだった。
パリスはバース性の研究をしている学者でもあるが、研究対象に興味を持ちすぎて、歪んだ好奇心から、学院内ではなかなか観察できないオメガや、ベータにも興味を示す、変態的嗜好の持ち主だ。
モーリジィに次いで厄介な相手だが、最後のイベントである『放課後お茶会クラブ』では、パリスの存在もまた大きな意味を持ってくる。
だからパリスの好感度も、モーリジィのものと同様に無視できないものなのだった。
「きみはベータのララ・フランシスとも仲がいいそうだね。私も仲間に入れてもらいたいものだ」
「はぁ」
「何、訝しがらなくても、私はアルファとして異端だという自覚が、きみぐらいの年齢にはもうあってね。アルファであるにもかかわらず、アルファの群れに馴染むことができなかったんだ。だからきみやララのような特例には、興味があるんだよ」
にこやかに話されても、ひとつも共感できない。ハルは悪役令息としての領分を守る笑みを浮かべてみせた。
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