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第93話 パリスの罠2
「そんなに羨ましがるほどのものじゃありませんよ」
パリスは強気なオメガが好みだ。そういう意味では、キャラクターとしてのハル・ロゼニウム・ガーディナーとは相性がいい。もっとも、ハルがパリスの前で悪役令息風を装うのは、好感度を上げるための小芝居だったが。
「ふむ。きみのように、ここまでアルファを虜にするオメガは初めて見るよ。実に興味深いね」
ベッドの傍の丸椅子ではなく、パリスはハルの隣りに腰掛けた。
「知っているかい? アルファを発情させ、ラット状態にするオメガはたまにいるが、複数のアルファに対して作用するフェロモンを出すオメガは、稀なんだ。大学でオメガの検体を何度か扱ったことがあるが、きみと彼らがどう違うのか、非常に興味をそそられる」
柔らかそうなパリスの指先が、ハルの頤を持ち上げる。かすかに消毒液の匂いがして、くらりときた。
「あの」
「ん?」
「あまり距離を詰めないでいただけますか」
「どうして?」
パリスの甘いマスクと声。目の前の生徒だけが特別だと示す優しい態度。ハルが入学する以前、もしかすると何人かのオメガが餌食になったのかもしれないと思う。アルファばかりの群れの中で安らげる場所を求めるあまり、パリスに身を委ねたとしても、そのオメガをハルは責められない。たとえ偽りだとわかっていても、時に人は愚かな選択をするものだと知っているからだ。
「他の誰かが入ってきた時に、誤解されると困るので」
冷たい声が出たが、パリスはこうして攻略するのが一番手っ取り早いはずだった。
しかし、パリスの口から問いが放たれると、ハルは思わず素に戻ってしまった。
「きみは、ララ・フランシスとできているのかい?」
「は……?」
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