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第94話 パリスの罠3

「アルファを差し置いてベータを選ぶオメガは希少種の中の希少種なんだよ。ますます興味深いね……」 「誤解です……っ、ちょっ」  驚いたハルを真正面から見つめ、パリスの指が包帯の巻かれた首筋に接着する。傷跡をなぞられると、声が出なくなった。 「アルファだけでなく、きみはベータをも籠絡できる特異体質だ。それは凄いことなんだよ、ハル」 「何を言っ……。ちょ……っと、先生……!」  押し倒されたハルが抗議の声を上げると、パリスはにっこり笑い、気休めにもならない嘘をついた。 「安心したまえ。私もきみが、初めてだよ」 「っ……」  歌うように言われて、拳をお見舞いしたくなったが、理性でその衝動を止める。かわりにいたいけな表情をつくったハルは、この異端児気取りのアルファを、寸止めで躱してやる、と強く思った。 「そんな希少種のオメガなんて、本当にいるんですか?」  好感度を上げるために会話を続けるハルに、パリスは荒い息をさせて覆いかぶさってきた。 「もちろん。ここに」 「ここに……?」 「そう。ここにいるよ」  シャツの中にパリスの手が入ってくる。鳥肌を立てながらも、ハルは悪役顔を用いてパリスの動きを止めるようとした。 「っおれに触りたいのなら、ちゃんと手順を踏んでくださらないと」  パリスはモーリジィと好みが似ていて、傲慢なところのあるオメガを組み敷くことに征服欲を感じるタイプだ。重ねて研究目的でもある以上、段階を踏んでゆっくり獲物に手をつけるに違いない。  そう睨んだハルの予測どおり、ハルを睥睨したパリスは口角を上げた。 「手順ね、いいだろう。確かに手順は大切だ」 「今は準備もできてないし、その時に相応しくないでしょう? ちゃんとしてくださらないと、おれは嫌ですよ」 「ふむ」  追撃を躱す言葉を放ったハルを、しかし好色に染まったパリスがそのまま逃すはずはなかった。

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