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第97話 トーリス・フラン・ロイエンバーム1
「トーリス、助けてくれて、その……」
できればお礼を言いたかった。
しかし、トーリスのダイアログはまだ一度も出ていない。トーリスに対するパラメーター値が初期値のままなら、素直に礼を言うことはできないはずだった。
(それに……)
なぜかトーリスが口にしたララの名前。
ラインボルン学院内にいるベータはララひとりだが、ララがパリスに狙われるのを知り得るのは、ゲームをプレイしたことのある者だけのはずだ。
「大丈夫か? ハル。寮の部屋で休んだらどうだ?」
ふたりの間に横たわる沈黙を破り、トーリスはハルを気遣ってくれる。ハルは一瞬、閃いた疑問をそのままに、首を横に振った。
「いや、もう平気だ。それにひとりでいるよりみんなの目の届くところにいた方が、いい気がするんだ」
「そうか。なら一緒に戻ろう」
キスだの何だのといつもうるさいはずのダイアログが出なくて、トーリスといると静かだ。互いに言葉を探しながら、廊下を曲がり、昇降口へと向かう。
「トーリスは、どうしてこっちへ?」
他の生徒たちはみんなクリケットのフィールドへ帰ってしまった。今回は運良くトーリスが救護室へ現れたことでパリスを回避できたが、下手をするとモーリジィの時の二の舞になるところだった。
「風紀委員長を探してたんだ。今回の乱闘は、さすがに報告しないわけにはいかないからな。ウィリスがフォローしてくれたとはいえ、事情聴取が長くなってしまった」
「そうだったのか。でも、救護室を覗いてくれてよかったよ」
「気にするな。俺もパリスのことが嫌いなんだ」
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