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第99話 トーリス・フラン・ロイエンバーム3

 ハルの場合は中途編入だったからそれほど付き合いは長くないが、普通の貴族の子弟たちは社交界に出る前から懇意にしており、友人と呼べるコネをつくるのも、大事な義務のひとつだった。  社交界に出るのは平均して十六歳頃からだから、ハルも、ハルの同級生たちも概ね社交界デビュー済みだが、卒業まであと二年を切っているのに必死さが足りないと、ハルは父からアルファの件について手紙で釘を刺されていた。 「どうも最近、ウィリスは変なんだ。まるで他の誰かがウィリス・フラン・ロイエンバームを演じてでもいるような……」 「ウィリスが?」  梅干しと昆布茶のレシピは門外不出で、好んで食すのはアリサとハルぐらいだった。それがおかしな習慣だという自覚は他の家と比べた時に持っていたため、悪戯や嫌がらせ以外で振舞うことは、これまでしてこなかった。 「変なことを言うと思うかもしれない。でも、少なくとも俺はきみの家で初めて梅干しと昆布茶を知った。ウィリスがどこでそれらと出逢い、懐かしいと思うに至ったのか、同じような育ち方をしているのに、俺にはわからないんだ、ハル」 「妹のアリサの前で、いい格好をしたかった、とかでは……?」 「そうだな。そうかもしれない。というか、そうであってほしい。すまないな。こんな話、つがいのきみにしか打ち明けられなくて。ウィリスがどこで梅干しと昆布茶を知ったのか、きみなら知っているかもしれないと思ったんだが」  双子の弟のトーリスがここまで思い詰めるのだ。相当前から悩んでいたのだろう。  しかしハルは、トーリスの言葉によって突然現れた可能性に、頭を殴られたような衝撃を受けた。

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