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第107話 ララ・フランシス6

「ごめんなさい、ハル。泣かないで……」  言葉が途中で途絶えて、視界が滲んでいるのをララの言葉で知った。人前で泣くのはいつぶりだろうか。弱みを見せまいと瞬きをすると、ぽろぽろと塩水が頬を伝う。  ララのたおやかな指が、ハルの頬の涙を拭ってくれる。まるで子どもみたいで、恥ずかしくて、懐かしくて、そしてどこか温かな気持ちになる。 「ぼくが馬鹿でした。あなたを傷つけるつもりはなかったのに、無理を言って困らせてしまって、ごめんなさい」 「そ、なこと、ない……っ、きみは、きみ、は、おれには、だ、大好きな、友だち、だから……っ。ご、ごめ、ごめん、ララ……」  泣きすぎて、しゃっくりが出てくる。こんなに想ってくれてる人と、心が重ならないのがもどかしくて、悔しくて、哀しい。どんなに誰から責められようと、ララを選べない。それが不甲斐なく、情けなかった。 「きみと、きみ、と、友だちで……っ」  幸せだ、と伝えたい。  ララに手を握ってもらったこと。  手の甲にキスをさせてもらったこと。  ずっと一番の親友のように傍にいてくれること。  どれもかけがえのない大切なことで、人生の途中で失うなんて、考えられない。 「ぼくはあなたの気持ちがわかっただけで、幸せです、ハル。もう泣かないで。ぼくも、あなたが許す限り、ずっと友だちでいたいです。それで、いいですか……?」  嗚咽を堪えて声を震わせるララは、気丈で美しかった。肩で切りそろえられた黒髪が、陽光を反射してキラキラと水面のように揺れる。手を伸ばすと、ハルの手を、ぎゅ、とかたく握ってくれた。 「ん、うん……っ、友だち、で、いて、ほし……っ」  ララがハルを想う強さを見た気がして、ハルもその手を握り返した。ララは、気持ちの硬度そのままに、ハルの手を握り返してくれる。

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