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第108話 ララ・フランシス7
「……ふたりとも、もう泣くな。こちらにまで伝染しそうだ」
後頭部をガリガリと掻きながらトーリスがそっとララの背中に手を当てた。すると、ララは今まで見せたことのない、哀しみを湛えた目をした。
「ハル、きてくれてありがとうな。きみも、もう泣くなよ。ララのことは俺が責任持って支えるから」
「んっ……うん」
トーリスの言葉に頷くと、それまで見守っていたウィリスが「じゃ、帰るか」と言った。
「ウィリ、ウィリス……」
ウィリスは慟哭に震えるハルの制服の袖を掴んで引いた。
「泣くなよ。今日の議題は終わりだ。それで、いいよな?」
久しぶりにウィリスに触れられるほど近くにきたハルは、心の中がふわっと浮き立つ自分を戒めた。ララと再び握手をして別れる。ララも、今度は、泣きながら笑っていた。
──また、明日。
かたく握られた手を、ハルはウィリスに引き取られ、ララとトーリスと別れた。
後ろ髪を引かれる想いで廊下に出ると、ウィリスがハルの手を引いてくれる。大きくて温もりのある手が、ハルの指をしっかり掴んでくれているのを見ると、切なさが溢れ出しそうで、ハルは少し困った。
「う、……っ、ひくっ、ウィリス、おれ……っ」
廊下を泣きながら歩いているハルを連れたウィリスを、もしも他の生徒に見つかったら、何を言われるかわからない。一発で噂の的だ。なのにウィリスはハルの歩調に合わせて、焦るでもなくゆっくりハルと歩いていた。
誰もいない週末の寮の空気に安堵したと思ったら、嗚咽が漏れ出した。どうしてララじゃ駄目なのだろう。どうしてウィリスがいいのだろう。と詮無いことを考える。答えは全部、自分の中にある。でも、納得するのに時間がかかることだった。
斜め前を歩きながら、手を引いてくれるウィリスへの愛しさと切なさが募っていく。
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