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第110話 ウィリス・フラン・ロイエンバーム1

 泣いたハルが落ち着くまで、ウィリスは隣りにいてくれた。嗚咽が止むと、無言のまま少し移動して、ティッシュボックスを差し出してくれる。 「ほら」 「……」  鼻水も出ていてみっともないはずなのに、ウィリスは嫌な顔ひとつしない。ハルが傷を癒すまでの過程を見守ることが、自分の役割りだと心得ているようだった。  髪を梳かれて、子どもにでもするように、背中をとんとんとあやされる。その間ずっと無言だったが、穏やかな沈黙はやがてハルを静かにさせた。 「……落ち着いたか?」  完全にニュートラルな状態に戻った頃、そう訊かれた。 「きみのそういうところ、……好きだ」  ぼそりと言ってしまって、しまった、と思って顔が上げられなくなる。素直になれることがわかってから、心の鍵がぶっ壊れたみたいに、本音がポロポロ漏れてくるのが恥ずかしかった。 「い、今のは空耳だ。忘れてくれ」  慌てて言い足すと、ウィリスの指が眦の涙の痕を拭い、それを口に入れた。 「確かに塩からいな」  以前、泣いた時に、塩水だと言ったことを覚えていたのだろう。ハルはどこかいたたまれなくなって赤面した。 「こんなの、ただの、塩水……だから」  ウィリスの顔がちゃんと見られない。半ば自覚はしていたが、はっきり好きだとわかった途端に、自分の制服にできたシワだとか、濡れたあとの頬だとか、匂いだとか、そういう余計なものが気になり出して、何も手につかなくなりそうだった。

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