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第112話 ウィリス・フラン・ロイエンバーム3

 そっとウィリスの手がうなじに差し入れられ、ゆっくり頭を支えられる。心臓が破れそうに鼓動しているのがわかった。滲んだ視界にいるウィリスを見つめると、「そんな顔をするな」と言われた。いったいどんな顔なのだろう。あさましく口づけを望む顔だろうか。ウィリスとしたい、という気持ちが、溢れてぐしゃぐしゃに縒れていく。  唇が重なる寸前に、ハルは思わずウィリスの袖を掴んでいた。 「……どうした?」 「ララ、は……、大丈夫、だろうか……?」  今ごろ、ひとりで泣いてやしないだろうか。 「きみ、ララの様子を見にいってくれやしないか? 傷ついてるとしても、おれには、その資格がないし……」  思い立って言ってしまってから、ウィリスの眸が困惑を湛えていることに気づいた。 「あ、いや、だって……」 「……お前は悪魔か?」 「え?」 「いや。今のは独り言だ。忘れてくれ。……あのな。これはそのうち時期を見て言うつもりだったが、トーリスがいるから、ララはきっと大丈夫だ。独りじゃない。トーリスの奴が、ララを独りにはさせないだろうから」 「トーリス?」 「複雑な話になるが、端的に言えばトーリスはララに惚れてる」 「た、っ」  端的すぎるだろ、と思ったが、見届け人としてトーリスがあの場にいた理由がわかった。  ウィリスによると、ララに想いを打ち明けたトーリスに、ハルのことを相談されたのだそうだ。同時期にララからもトーリスとハルのことについて相談を受けたため、三人で協議して、あの場を設けることを決断したのだという。クリケット大会のはじまるすぐ前のことだったらしい。

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