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第126話 『放課後お茶会クラブ』3
「これさ。梅干しと昆布茶」
「それが?」
「この前、トーリスに言われたんだ。これをきみが、どうして懐かしいと思うのか、探ってくれと。きみ、トーリスにもララにも、誰にも転生者だと打ち明けてないんだな。ま、それはおれも同じだけれど」
「ハル、お前……」
眉を寄せたウィリスに、ハルは傷ついたことを隠して、無理をして笑った。
輪姦破滅フラグのために、ひたむきにここまでやってきた。
だが、ウィリスの反応を見て、最後の最後に不確定要素を入れるわけにはいかないとハルはあらためて思ってしまった。勝ちを拾いにゆくには、ひとりでゆくしかないのだ。
「きみはいったい何者なんだ? ウィリス。悪いけど、正体が見えない以上、今回は全員を蚊帳の外に置くことにした。たとえきみが何者だろうと……今回は、モブ扱いだ」
「何の話を……」
刹那、ハルの左隣りにいたララの身体が、ぐらりと傾いた。ハルは「ごめんよ」と呟くと、船を漕ぐように意識を失い寄りかかってきたララを、そっと椅子の背もたれに凭れさせた。
途端に今まで紅茶を嗜んでいた招待客たちが、次々と身体を揺らしはじめる。ある者はテーブルに突っ伏し、ある者は床に蹲り、ある者は椅子の背に寄りかかり、気がつくと誰も彼もが意識を朦朧とさせていた。
「ハル、お前、何を……」
言いかけたウィリスが立ち上がろうとして、がくりと膝をつく。身体の異変に気づき、ハルを信じられない目で見つめた。
「何を、盛っ……っ」
テーブルに腕をつき、どうにか転倒を拒んだが、やがて長い腕が踏ん張り切れず、梅干しの入った壺を、押し倒してしまう。
「く……」
転がった壺からは、ごろごろと梅干しが転がり出た。ウィリスは床に爪を立てて梅干しを掴んだまま、ついに昏倒した。
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