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第133話 『放課後お茶会クラブ』10

 悔し涙すら出てこないハルの前に、モーリジィがしゃがみ込んだ。無骨な手がハルのシャツのネクタイを解き、ボタンをひとつずつ外してゆく。呆然としながら、信じられない思いでハルはその様子を見守るしかなかった。 「せん、せ……っ」  目を覚ましてください、と祈る。  だが、目を覚ますべきなのは、ハルの方なのかもしれなかった。 「すまないね、ハル。あの小瓶には、私の指紋も付いているんだ。入手ルートが明らかになったら、困るのは私なんだ。本当にすまない……」 「え……?」  大してすまなそうな口調でなく、歌い上げるようにパリスは囁いた。うなじを覆う髪の毛を鼻先で避け、そっと匂いをかがれると、鳥肌が立つ。パリスの心を掴んでいたかもしれない可能性と、それを台無しにしてしまった自分への、取り返しのつかない後悔が胸を押しつぶす。  小瓶には、モーリジィのものの他に、もうひとつ、誰のものかわからない指紋が付いていた。あの痺れ薬は薬局でしか扱っていないし、裸では売られておらず、箱に入った状態で取り扱われるものだった。ハルはてっきり処方箋の必要なものだから、正体不明の指紋は、中身を確認した薬剤師のものだろうと思い、気にもとめずにいたのだが。 (失敗、した……っ)  青くなったハルの顔を、モーリジィが勝ち誇った顔で覗き込む。 「あの小瓶を隠したんだって? どこに隠したんだか、言えるようにしてやるよ。腹の中をぐちゃぐちゃに犯して、泣き叫ぶ声が枯れたあとで聞いてやる。なぁ、ハル・ロゼニウム・ガーディナー?」  ぞくりとくるような凶悪な表情で、ハルの身体の上に跨ったモーリジィが嘯いた。ベルトが外され、前が開かれ、舌なめずりをするモーリジィに、ハルは反射的に恐怖心を抱き、暴れ出した。 「さ、わるなっ……! 嫌だ!」 「大人しくしやがれ!」  バチッと音がして、再び頬が叩かれると、暴れはじめたハルの拘束をきつくしながら、パリスがモーリジィに苦言を呈した。 「きみ、暴力は最小限にしてくれ。壊してしまわないようにやってくれる約束だろ」 「俺に命令するなっ」 「だが、一番手を譲るのだから……」 「うるせえ!」  言うなり、モーリジィが拳を突き出した。

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