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第135話 『放課後お茶会クラブ』12
ぱたりと涙が零れて、視界が歪む。
もう駄目だ、と思ったその刹那のことだった。
モーリジィの首に向かって延髄蹴りを見舞う長い足が見えて、ハルは抵抗を止めた。
「ぐあっ!」
モーリジィの叫ぶ声がし、そのまま後方へと吹っ飛ぶ。
その足の持ち主が、震える膝を支えて、肩で息をしながらハルとモーリジィの間に入った。
「な……んで」
大きな背中が見え、ハルは瞬きした。
涙が落ちて、視界が大きく開ける。
背の高い赤髪の生徒だった。眸の色は後ろからでは判別不能だったが、何度も見てきた背中だった。忘れるはずがない。間違うはずもない。
「あー、うるせぇ。耳鳴りがする……」
彼は左右に一度ずつ頭を振ると、チラリとハルを振り返り、睥睨した。
「ウィリス……、ど、どうして……?」
「話はあとだ。まだ戦えるな?」
ウィリスはそう言うと、そっと手を差し出した。ハルが拘束を解き、目前にかざされたそれに縋るようにつかまると、ぐいと引かれて立ち上がらされた。服の前を急いで直していると、ウィリスが覚醒した笑みを浮かべた。
「酸っぱ! やっぱり最高に酸っぱくて甘いな、この梅干しは!」
(梅干し……!)
薬を盛られて沈んだはずのウィリスが復活した理由が、その一言でわかった。
「てめぇ、よくも……」
ウィリスの前方に転がったモーリジィが、あれだけの蹴りを食らったにもかかわらず、獣のように立ち上がった。
「よくもやりやがったな!」
「こっちの台詞だ。俺のモノに手を出したら、どんな目に遭うかきっちり教育してやる。これでやっとあんたとやれるな。モーリジィ先輩……!」
ガリ、と梅干しの種まで喰らい尽くしたウィリスが、モーリジィに向かったまま、ハルを呼んだ。
「ハル!」
「は、はい……!」
「みんなを起こせ。ここは俺が引き受ける」
「わかった……!」
転がっていた梅干しを素早くかき集めたハルが、倒れている者たちの口の中に入れはじめると、モーリジィが雄叫びを上げてウィリスに襲いかかってきた。
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