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第138話 恩寵1
『ほい、呼んだかの?』
いきなり視界が開け、宙に浮いているハルがいた。
(ふあっ? か、「神」っ?)
『ほう、わしゃ「神」か。悪くないのう』
あご髭を指で梳きながら「神」はなぜか上機嫌だった。
(じ、爺ィ……っ、が、何でここに……?)
『お主が呼んだんじゃろが。ふむ、少しはマシな面構えになったのう。どうじゃ? この世界の住み心地は?』
(さ、いあくだ……。おれのせいで、おれが、全部ぶち壊してしまった……。見ればわかるだろ。モーリジィ攻略にうつつを抜かしてこのザマだ。最初からあいつの手の内で踊るような真似、しなきゃ良かった……)
好感度が初期値に戻ろうとどうしようと、モーリジィを『放課後お茶会クラブ』に招かなければよかった。そうすれば、ハルはともかく、ララやロイエンバーム兄弟、それに先輩たちを巻き込まずにいられたのだ。
『反省しとるかの?』
(反省? 反省どころか、後悔している。おれがモーリジィを招待しなきゃ、こんなことには……)
ハルはそのまま宙で蹲った。こうして「神」の力で時を止めても、何の解決にもならない。時を戻せるのなら、今度こそ絶対に間違わないのに。
(せっかく新しい人生をもらったのに、輪姦破滅エンドで終了するみたいだ。あと一歩、及ばなかった。モーリジィの凶暴さを、甘く見すぎていた……)
モーリジィさえどうにかできれば、パリスもついてくると考えていたが、思ったよりもモーリジィの破壊力は凄まじかった。
(……全部、おれの見通しの甘さが招いたことだ。おれにはその責任を取る義務がある。けど、ひとつだけ心残りがあるんだ)
『何じゃ?』
(ウィリスを……)
ハルはそこで言い淀んだ。彼がどんな人間でも、ハルを救ってくれたことに変わりはない。自らを犠牲にしてハルのために戦ってくれた。そんな存在を、傷だらけにしてしまった。
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