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第139話 恩寵2
(ウィリスに、これ以上怪我をさせたくない。おれのために犠牲になってほしくない。モーリジィとも、もう戦ってほしくない。できれば、ウィリスを助けてほしい。その結果、おれはどうなってもかまわない……っ)
輪姦破滅エンドを迎えても、大事な人たちが傷つかず、幸せに生きてくれるなら。ハルは唇を噛みながら、腹の底で覚悟を決めた。
『ふむ。して、理由は?』
(理由……?)
『なぜそこまでウィリスにこだわる?』
(それは……)
ウィリスの一挙手一投足に、惹かれてしまうからだ。それはハルがウィリスのことを、好きだと思いはじめたことに起因する。
(恋を……してしまったからだ)
言うなり胸がじんとして、涙が一粒、零れ落ちた。
(お、れは……っ、ハル・ロゼニウム・ガーディナーは……っ、ウィリス・フラン・ロイエンバームが好きだ……っ。かなわぬ恋だとしても、あいつの中身が別の誰かで、転生者だったとしても、おれは……)
何者でもかまわない。大切だから、傷つけたくない。
『なるほどのう……』
すすり泣くハルの姿を見て、「神」はひとつため息をついた。
『お主はウィリスにぞっこん、というやつじゃの?』
(ぞっこん……? ああ、夢中ってことか? そのとおりだ。あいつが転生者でも、誰であっても、おれにとって大切な人であることに変わりはない)
認めてしまうと、心の中にあった重みが取れた気がした。「神」はハルをしばらく見つめていたが、やがてひとつ咳払いをした。
『あー、仮の話じゃが、ウィリスが助かったら、お主、どうする?』
(え……?)
『わしは「神」じゃて』
思わせぶりにハルを見下ろした「神」は、何かを要求する顔芸をしたが、ハルには何を求めているのか、まるで意味がわからなかった。
(ウィリスが助かったら……?)
腹の中でその意味を考えたハルは、一瞬、雷に刺し貫かれたように閃いた。
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