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第141話 恩寵4
「ぐっ」
ただ触れるように突いただけなのに、モーリジィはまるで力が抜けたように、白目を剥いて倒れてしまう。
『ふぅ、これでよしじゃ。こいつの経験値をオールゼロに戻したったで。感謝するがよいぞ』
額を拭い、ひと仕事した感を演出する「神」の隣りにハルが降りてくると、やがてウィリスの身体の表面が二重にブレて、一致したかと思うと、動きはじめた。
(……余計なことを)
ウィリスが開口一番、零す。
『何じゃい! わしが出てこんかったら、お主、傷だらけじゃぞ! 感謝せんかい!』
杖を振り上げてプンスカ怒る「神」に、ウィリスは(こんな傷ぐらい、何でもない……)と不愛想に呟いた。どうやらウィリスはモーリジィとやり合うにあたり、勝利する自信があったらしい。
『だっから転生者は嫌なんじゃい! 助けたって、わしにいいことなんかひとつもないわい! このっ、このっ!』
(イテ、イテテ……! 爺さん、痛い……!)
降参のポーズを取ったウィリスがあらためて(助けていただいて、ありがとうございました)と言ったので、「神」の癇癪も一段落したようだった。
『ふんっ、わしのお陰じゃ! せいぜい感謝するがよいぞ!』
途端に胸をそらす「神」を見て、ハルは(ちょろい……)と思った。
『お主、全部聞こえとるぞ』
(え? あ……!)
不機嫌な「神」に睨まれ、ハルが急いで思考を空白にするよう努める。「神」は咳払いをして『ま、今日で最後のポーズじゃから、特別に許すとしよう』と言った。
『にしてもお主、ずいぶんと励んだのう。こんな辺境にまでくるなんぞ、わしも初めてじゃわい』
(辺境?)
ハルが尋ねると、「神」は腰に手を当て、ニヤニヤしながらウィリスに向き直った。
『こやつ、ウィリスを助けてくれー、言うて、わしに泣きつきよったんじゃい。そこでわしがひと肌脱いだわけじゃ。おかげでパラメーター値は初期値に逆戻り。当分素直に発言できんぞ』
(ちょっ、何バラしてるんだよ、「神」!)
『本当のことじゃろがい。悪役令息のくせに周囲の好感度を軒並みかっさらいおって。ウィリスが死んだらおれも死ぬ~とか言いくさりおって』
(そんなこと言ってない!)
(そうだったのか?)
ウィリスの問いに、ハルは激しく首を振った。
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