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第142話 恩寵5
(違う! この爺ィの言うことを真に受けるなっ)
言いながら、頬が火照るのを感じる。胸の奥がすうすうして、何だか変な感じだったが、それどころではなかった。
(た、助けてもらったから、借りを返しただけだ! べっ、別にきみだからとか、そんなんじゃないからな!)
──あれ?
何だか出力が安定しないぞ、と不審に思う間もなく、ウィリスがハルに笑いかけた。
(そうか。でも良かった。どちらにしろ、破滅フラグはもうへし折れたと思っていいんだよな? もうひとりで危ない橋を渡ろうとするなよ?)
(う……あれ?)
フラグが折れたのは嬉しかったが、ウィリスの態度にハルは違和感を覚えた。先ほどから目が合っても、胸のときめきめいたものがない。まるで赤の他人と話しているような感覚に襲われ、ハルの心は少しだけ軋む。
(これで嫌いなやつに我慢して話しかける必要もなくなったわけだ。よくがんばったな、ハル)
(あ……、う……)
ウィリスが傷だらけの手で、ハルの髪を一房、梳く。いつもならそれだけで赤面して、言葉が零れてしまうのに、今は逆に喉が詰まってしまい、上手に内面を表現できない。
何が起きたのかわからず苦心していると、隣りで様子を見ていた「神」が、見かねた顔でため息をついた。
『ほんっとにお主は……阿呆じゃのう。初期値に戻るのはお主のパラメーター値じゃて』
(へっ?)
(パラメーター値?)
ウィリスの問いに、「神」が簡単にモーリジィを倒すに至った経緯を話した。
(なるほど。ハル、ありがとうな)
(ウィリス、ちが、あの、これは……っ)
ハルがあたふたしていると、「神」はひょいと踵を返した。
『ほんじゃま、わしは行くからの』
(ちょっと待ってくれ)
『ぐえっ』
ウィリスが帰ろうとした「神」のローブを思いっきり踏んづけた。
『何をする! 年寄りには親切にせんかい! この……っ』
(もうひとつ、頼まれてくれませんか「神」)
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