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第144話 恩寵7

『普通ならトゥルーエンドの裏で悪役令息が破滅してゲームオーバーの世界なんじゃが……うーん、言いづらいのう……。ま、早い話がお前さんたちはゲームが終わっても、この世界から抜け出ることはできん。魂の生涯を、ここで終えることになっとる』 (ちょっ、ちょっと待て、爺さん。何の話を……)  ハルが声を上げると、「神」は当然のように杖でコツコツ、と空間を突ついた。 『このゲームじゃよ。開発中に色々ほったらかされたモジュールがそのまんまリリース後も生きとるんじゃが、中に入ったら出られんブラックホールみたいなルートがあっての。そのフラグが……』 (つまり、何かしらの形でゲームのエンディングがきても、ここでの人生は老いて死ぬまで続く、ってことですか?)  ウィリスが口を挟むと、「神」は杖を振って頷いた。 『おお、それそれ! それじゃ! さすがお主は敏いの〜。じゃが、開発者がパッチさえ当てればすぐにでも出られるはずじゃ。大したことのないバグじゃて。そもそもこのルートへ入り込むフラグは凍結されとると思っとったが』 (ちょっ……)  その言葉を聞いて、ハルは青ざめた。 (パッチって、このゲーム、確か三年ほど前に……) 『ふむ。続編の見込みが立たなくなって、サポート終了したんじゃった』 (つまり、……) 『バグはそのままじゃな!』  そう言い放った瞬間、ハルは脳裏で自分の叫ぶ声を聞いた。 (このクソ「神」ィィィィィ!) 『うぃいぃぃ、揺するな、腰が……!』 (ふざっけんなこのクソゲー「神」が! おれはともかくウィリスぐらい何とかしろよ! クソだクソだと思ってたけど、ほんっとにクソゲーだな!) 『腰が……腰がぁぁ……!』 (落ち着け、ハル。そんなに揺すったら、その爺さん……) (腰より大事なものがあんだろーが!)  ガクガクと揺すられて目を回した「神」をウィリスが何とかハルから引き剥がす。 (俺はいいんだ。こっちの世界もなかなか面白いからな。ハル、お前にも逢えたし) (なっ……)  ハルが赤面するのを確認すると、ウィリスは「神」に対して(大丈夫ですか?)と労わりの態度を示した。

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