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第145話 恩寵8
ウィリスが「神」を杖に縋らせて立たせると、「神」はガクガクしながら涙目を拭った。
『ふ、ふん。願いをかなえてやったと言うのに、この仕打ちじゃ! 全くろくでもないわい、この悪役令息が! 二度も恩寵を使わせよってからに!』
がっくりきたハルが睨むと、「神」はいそいそと帰り支度をし出した。
『さてと。ま、そういうわけじゃ。お主ら、ともに好きにせい。三回目のポーズを使いよって、もうわしに用はないじゃろが、気が向いたら逢いにきてやらんこともないわい。さらばじゃ!』
信じられないことに「神」はそう言い残すと、勝手に宙を閉じてどこかへかき消えてしまった。
まるで夢のようだった、と思った矢先、ウィリスがハルの肩に手を乗せた。
「ハル、パラメーターの値が増えた感じ、どうだ?」
「どうって言われても、別に……」
何がどう変わったとか、具体的な変化は感じられない。ウィリスが近距離で血を流しながら、ハルを思いやってくれるのが、くすぐったい感じがするぐらいだ。
「不調に思うようなところはないか? 急に増やしたから、何か起こってもおかしくないと思ったんだが」
「驚くほどに何もない。きみは? 急に半分に減ったんだろ? きみこそ、不調はないのか?」
ハルに渡されたハンカチで首を止血するウィリスを見て、心配とともに、少しこそばゆい気分になる。さっきから、胸の奥の風通しの良かったところが塞がってきた気がしてはいる。これがパラメーターの値を分けてもらって起きたことなら、謝意を示すべきかもしれないが、今ひとつ確信がない上に、自由に喋れない。
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