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第146話 恩寵9
「……どうやら俺は、デレる前のツンデレに戻ったみたいだ」
「そうか」
ウィリスは何でもないことのように笑ったが、もったいないことをしたな、とハルは密かに唇を噛み締めた。
せっかく積み上げてきたパラメーター値がリセットされてしまったということは、ウィリスを好きな気持ちも、ララへの友情も、トーリスへの親愛も、何もかもを全部捨ててしまったことになる。
ウィリスが覚えていないとしても、ハルが覚えていれば、それでいいと思っていた。冷たい態度であしらわれても、今度は自分が距離を詰めればいい、と思っていたのに。
なのに、全部消えてしまった。またイチから積み上げ直すとしても、同じように上手くはいかないだろう。貴重なものだったのだと、失って初めて思う。記憶は残っているが、砂のように味気ないのがもどかしかった。
「今から少しずつ、また積み上げていけばいいさ。俺はお前を好きなままだし、きっとみんなだってそうだ。お前が少しぐらい素直じゃないことなんて、わかってるしな」
ハルの心の中を悟りでもしたように、ウィリスは慰めの言葉を吐いた。
「……べ、」
「ん?」
「別に……、褒めたって何も出ないぞ!」
「ははっ、そうだな」
それでもいいさ、と言い切ったウィリスが破顔した。
ハルは、その表情を見ながら、胸の奥が微かに波立つのを感じていた。
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