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第152話 字井永一朗1
「字、井、え……?」
どこかで聞いた名前だと思ったが、どこで聞いたのか記憶が定かでない。前世に親しく交わった人間ではないことは、脳裏をさらってみて確信できた。
しかし、喉の奥の小骨のように、その名前がつっかえている。
ウィリスはハルの反応を見て、「そりゃそうか。逢ったのは、死ぬ間際の一度きりだったしな」と苦笑し、ハルの鼓膜に声を吹き込んだ。
「──愛してないだろ」
「……!」
その言葉に、声の抑揚に、ハルははっと顔を上げた。字井永一朗。大庭遥の元婚約者である有咲真冬の幼馴染。前世でハルの心に、消えないダメージを負わせた男。
「字、井……、永一朗……、きみが……?」
呆然とウィリスを見上げると、昏い表情で見返された。
「覚えていないのも無理はない。あの言葉を放ったすぐあとのお前は、凄く動転していたからな。あんなに狼狽するなんて、どんな生き方をしてきたのか、可哀想になるほどだった」
「あ、……」
あの時の、手足がぎゅっと寒さで縮む感じが蘇る。ハルの内面を一瞬で看破し、容赦のない事実を突きつけた男が、字井だった。
「思い出したか? またあの時みたいにお前が混乱して、飛び出していきやしないかと思うと、打ち明けるのが適当なのか、これでもかなり悩んだんだ……。だけど、お前が前世の因縁に向き合うことになった時、今度こそ俺が傍にいる。もしも幻滅してパラメーターの値が下がったとしても、もう一度、上げればいい話だ」
「あの、あの時の……」
覚えていた。あんなに哀れむような口調を向けられたのは初めてで、無性に胸がかき乱され、取り乱したのがまるで昨日のことのようだった。
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