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第153話 字井永一朗2

「お前はあのあと真冬の家を飛び出して、トレーラーに轢かれて即死した。俺はそれを追いかけて、目撃していたんだ。助けられなかった。あの時、どうしてもう少し優しい言葉をかけてやらなかったのか、後悔してもあとの祭りだと思っていた。でも、もう一度、逢えた」  ハルの顔を覗き込んだウィリスは、皮肉げな笑みを浮かべ、ハルの頬をそっと撫でた。 「きみも……死んだのか? ウィリス」  ハルは記憶こそ戻ったのが最近だったが、転生してこちらの世界にきた。ウィリスも同じように転生したのだろうか。 「いや。俺は眠って起きたら、この世界でウィリス・フラン・ロイエンバームになっていた。『ベータはアルファの誓約に』は真冬に勧められてプレイさせられていたから、ここがゲーム世界だということはすぐにわかった。俺は始業式の最中に急激な眠気に襲われて、寝落ちして起きたら前世の記憶があったんだ。その時チュートリアルが開いて、例のあの「神」と、少し話しをした」  ハルが記憶を取り戻したきっかけは、始業式のあとに中庭でララがリンチされる事件を唆したハルが、それを見ていたところ、泥団子が側頭部に当たり、意識を失ったことだった。ウィリスとハルが転生前記憶を思い出したのは、ほとんど同時期だったのだ。 「おれのこと……、おれが悪役令息なことも、知っていたんだよな?」 「ああ、知っていた。リンチされているララを遠巻きにしていたお前は、妙に目立つ奴だったからな。すぐにハル・ロゼニウム・ガーディナーだとわかった。この騒ぎを止めるよう言いにいったんだが」  ハルの側頭部に泥団子が命中する方が、早かったというわけだ。 「その後、救護室でお前のチュートリアルが、俺のすぐ目の前で開いた。それで、お前もまた転生者なのだと気づいた。あの宙が開く時、他に転生者がいると、巻き込まれるるらしい。それであとから真冬と逢った時に、お前が転生者、しかも大庭遥であるという情報を共有した」

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