155 / 179

第155話 字井永一朗4

 驚きの上に驚きをトッピングされて、ハルはリアクションに困ったままウィリスを見た。ウィリスは金色の眸に鋭い色を湛え、ハルを凝視していた。 「最初は、お前が道を踏み外さないよう、見張るつもりでいたが、その必要もなくなりそうだと、洗濯大会やお茶会での態度を見て思った。だから、お前が人生をやり直すなら、その手伝いをしたいと思っていたんだ。最初はな」 「そ、っか……」  だからウィリスと目が合う頻度が高かったのだと思った。理由はどうあれ、ウィリスは最初からハルを見ていたのだ。 「なら……おれを抱いたのも、好感度を下げないための苦肉の策だった、ってことだよな」  狡い言い方をしてしまったが、ウィリスにこれ以上期待すまいと思うあまり、素直に尋ねられなかった。あの時点で好感度をゼロにするのは得策ではないと、ハルもまた考えていたにもかかわらずだ。  だが、ウィリスは否定した。 「あれは俺の意志だ」 「意志……?」  もしそうだったとしても、ハルを無害化するには、あの時点でダイアログに従っておくのが最善手だったはずだ。その上でララの安全を確保すれば、二重の意味で完璧なはずだった。  哀しみが胸を満たしている。ウィリスはハルの恩人だ。これ以上求めてはいけないとわかっているのに、心がわずかに残った期待に走り出そうとする。ハルが沈黙すると、ウィリスもまた黙したあとで言葉を継いだ。 「ハル。確かに俺にも「神の試練」ダイアログは出ていた。従わなければ、パラメーター値がゼロになることも知っていた。お前が俺を見なくなるぐらいなら、抱いてしまおうと思ったのも事実だ。だけど、口説いたのは俺の意志だし、もしお前が俺から離れて、モーリジィのような輩に靡いたら、危険だと判断した。複合的な要素が重なっていて、今となってはどれも本当だとしか言えない。でも、俺はあの時点でお前のことが、好きだったんだと思う」  ハルはぎゅっと唇を噛んだ。確かにウィリスの言うとおり、ハルを保護する意味合いもあったのだと思うと、たとえそれが最善の策であったとしても、心が軋むのを止められなかった。

ともだちにシェアしよう!