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第156話 字井永一朗5

「最初は前世の因縁からはじまった話だったかもしれない。だけど、この世界で生きると決めた以上、より良く生きたいと俺は思った。お前を抱いたのも、お前と仮のつがい契約を結んだのも、心からそうしたいと願ったからだ。隠し事をしたことで、お前が傷ついたことは謝る。でも、俺から、お前を口説く機会までは奪わないでくれ」  ウィリスは苦しげに言うと、幾度か躊躇ったあとで、そっと指を伸ばしてきた。ハルの金髪に触れる。 「お前にパラメーター値を半分やったのは、俺を見て欲しかったからだ」  滲むような声でそう言われ、ハルは思わずカッとなった。 「きみ、……っ狡いぞ」  今になってこんなことを言うなんて。  諦めていたはずの胸の疼きが、ウィリスの言葉に、強く大きくなってゆく。 「狡くてかまわない。お前を手に入れられるなら、何でも、それこそ「神」にでも誰にでも頼んでやる。前世の因縁がスタート地点だとしても、ともに寝て、ともに起きて、ともに生活してきて、俺が何も感じなかったとでも?」 「っそんなの、俺だって……」 「お前のことを前世で半年間、尾行した。あの時から、思えば俺はお前に堕ちるようにレールを敷かれていたんだと、今は思うよ。まずいなと思った時は、もう遅かった。お前のことが気になって仕方がなくなっていた。そういうことだ」 「……っ」  ハルが俯いてしまうと、ウィリスはその髪を一房、梳いた。ウィリスの癖を知っているハルは、それが愛情表現の、もっと言えば求める時の仕草だと知っている。 「ハル。お前が好きだと前にも言ったと思うが、今はお前の気持ちが聞きたい。俺を、嫌いか? お前を死に追いやった男の顔など、見たくもないか……?」  ハルが耳を塞ごうとすると、その手首をそっと掴まれ、顔を覗かれる。 「やめ……っ」  火照ってみっともなく上気した表情を、見られたくないのに、ウィリスの手を振り払えなかった。  顔を背けるが、それぐらいではウィリスの追撃は免れない。

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