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第157話 字井永一朗6
「ハル」
名前を呼ばれるたびに、指の先から骨の奥に向かって、身体の中心に向かって、静電気のようなものが流れる。ウィリスがハルを想ってくれているのが、わかってしまうからこそ、恥ずかしかった。
「ここにダイアログがある。ハル」
言って、ウィリスはちょうど心臓のあたりを指した。
「お前にキスをするか、しないか、問い続けているダイアログだ。今までずっと「いいえ」を選び続けてきた。「はい」を選んでもいいか? お前に口づけする権利を、もぎ取ってもいいか? ハル……?」
夢みたいだと思った。答えはとうに決まっている。顔が熱くて、視界が潤んでいて、ウィリスの顔がまともに見られない。それでもどうにか顔を上げ、視線を合わせると、ピコンとハルの側にもダイアログが出た。
「……んなの、決ま、って……」
ハルが囁くように答えると、ウィリスはそっとハルの顔を覗き込みながら続けた。
「決まっていても、お前の口から答えが聞きたいんだ」
「あ……」
「ハル……?」
「っ」
何を言おうとしたのか、黄金色の眸に見惚れているうちに忘れてしまう。ウィリスのことを好いている。胸の高鳴りも心の疼きも、偽物だと否定する術がない以上、もう間違いない。触れられるまでもなく、心臓がパチパチと音を立て、小さく燃えている。ウィリスの視線が通ったところ全部が、まるで化学反応でも起こしているみたいに、花火のように弾けるのがわかる。
「……きだ、ウィリス……」
零れてしまう。
「だ、っだから、そんな顔でおれを見るな。でないと、色々困るんだ」
まだパラメーター値が足りてない。だからウィリスにはっきり伝わるように、好きと言えないと思った。なのに、問われると、答えたくなる。どうしても、応えたくなる。
「どう困るんだ、ハル」
真摯な眸でウィリスに睨まれると、動けなくなりそうだった。
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