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第159話 字井永一朗8

「お前が欲しい。代わりに何を差し出せばいい? 何を差し出しても、さらってしまいたいほど、お前を手に入れたい、ハル……」 「ずる、いこと、言うの、禁止」 「ずるい?」 「お、おれの方が限界、だから……っ、おれの方がきっと好きだし、離れたくないし、おれの方がずっと……っ」  ハルは懊悩を吐き出してゆくうち、羞恥のあまり死んでしまいたくなった。思わず目前のウィリスを睨むと、その表情が驚きから慈愛に満ちたものに変わる瞬間が見えた。 「キスしてもいいか?」 「きくな、っ」 「……好きだ、ハル……」 「言う、なっ」  瞬間、音もなく、唇が重ねられた。 「しん、じゃう……っ」 「何が?」 「すき、すぎ、て……」 「俺もだ」  ちゅ、と柔らかく重ねられていた唇を開くと、遠慮がちに舌が差し入れられた。泣きそうな速度にハルが息を吐くと、それを食い尽くすような強さでウィリスが求めてくる。 「んっ……んー……っ」 「愛している、ハル……」 「っ……」  静かに、まるで表面張力だけで持ちこたえていたはずのコップの水が、溢れ出すみたいに心が満ち足りてゆく。もう、愛の意味を知りたかった頃のハルではなくなっていたが、人が変われるのだということを知って、それがこんなに幸福なことだとは思わなくて、心の中で少しだけ泣いた。 「ハル」 「んっ……」 「お前と一緒に生きていきたい。卒業しても、大人になっても、老いて死ぬまで、ずっと……」 「ん……っ」

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