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第170話 愛咬10(*)

 涙が止めどなく流れ、長い遂情を終えたハルがぐったりとシーツに横たわると、ウィリスが抱えていたハルの片足を下ろし、そっと後頭部の蜂蜜色の髪に手を差し入れ、持ち上げた。 「ウィ、リス……噛んで、っ願、い……」  ウィリスはハルの声に頷くと、そっと汗にまみれたうなじに自らの牙を突き立てた。 「──生涯、お前を愛することを誓う。ハル……」 「ぁ、ん……はぁ……っ」  みり、とウィリスの犬歯が肌に食い込んでゆく音がする。血が出て、傷口からウィリスの唾液がオメガの体内の赤い血と混じり、結びつく。  その刹那、言い表せないような深い愉楽に全身を包まれたハルは、ウィリスの背中に手を回した。 (ここに、いた……)  ──うなじを捧げられる人。  身体が痺れて上手く動かない。新たな刺激を獲得したハルの視界には、選択制のキスを問うダイアログがピコン、ピコン、ピコン、と出現し続ける。  じゅぱ、とウィリスが牙を外すのと、腹の中の重ったるい熱を感じるのが同時だった。 「卒業まで、控えるつもりだったが……」  ウィリスが息継ぎと同時に少し詫びたが、ハルは愛しい人の面影を視界に捉えると、ちょっと微笑んだ。 「いい。おれ、が、して、欲しかった、から……。それに、ふたりで決めたことだ」  傷跡は新しく、しばらくは膿むだろう。  だが、その痛みすら、ハルはきっと嬉しく思うだろうと予感していた。

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