175 / 179
第175話 淑女のお茶会3
すると、悪ノリをしているウィリスが、こっそり耳打ちしてくる。
「ハル、悪役顏、さまになってるぞ」
「勘弁してくれ……。おれがせっかく謝ったってのに、前世より悪化してないか? あれ」
「別に減るもんじゃないだろ」
「明け透けすぎるだろう」
「はは」
愉快そうに笑うウィリスは、さすがに前世からアリサの趣味を理解し、伊達に幼馴染をやっていたわけではなさそうで、ハルは孤立無援の気分になるところだった。
「そういえば、きみも属性に縛られてたりするのか?」
「ん?」
「前に「神」がおれに言ったんだ。「お主はツンデレ属性じゃ」って」
「ああ。悪役令息にだけある、あの奇妙なルールのことか。俺たちにも一応、逸脱を縛るルールは緩くあるらしいが、俺は特に圧を感じたことはないな」
「じゃ、おれだけ? あの苦労はおれだけなのか?」
「まあ縛りがキツいのは、そうらしい。おかげでお前の色々悩み苦しむ姿が見られたわけだ」
ウィリスがそう言ってハルの金髪を一房つまむと、指に巻きつけて遊ぶ。途端に少女たちが色めき立ち、こちらへ向けられる視線が熱線と化した。
「ウィリス、きみ、楽しんでるな?」
うらめしそうにハルが睨むと、カップに視線を落としたウィリスは苦笑した。
「淑女の餌にされるのも、なかなかどうして、新鮮な刺激になる。いいじゃないか、いずれ啓蒙にもなり得るかもしれん。ま、ナマモノだから、しかるべきところには隠してくれと念押ししてあるが」
「きみ、知ってたのか……!」
少女たちのただならぬ視線を感じながら、全然隠せてないじゃないか、とため息をつく。
「何をお話していらっしゃるのかしら?」
「きっと哲学的で高尚なことを論じ合っていらっしゃるのよ」
などと聞こえてきて、いたたまれなくなる。
「あの魔女め……」
そういえば、前世でもアリサは悪役令息受け推し一択だったな、と思い出したようにハルは唸った。
「彼女なら大丈夫だ。抜け目のない女性だからな。前世でも、今世でも、人生を思う存分楽しむ術を知っている」
「おれたちを餌に、か?」
「そうだ。せいぜい、見せつけてやるさ」
「ったく……」
逞しいのは結構だが、彼女の将来を案ずる兄としては、いささか複雑な心境になるハルなのであった。
ともだちにシェアしよう!