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勇者を辞める方法

◇     雑に刈った草の上で目を覚ます。洞窟の奥までは朝日が差し込んで来ないが、何度も繰り返しているうちに体が朝の時間を覚えたかのように目が覚めるようになった。  キースが無人島に来てから一カ月もたっただろうか。伸びた前髪が目にかかり邪魔なのでナイフで適当に切った。仲間に見られれば「また適当に切って!」と怒られるだろうが、今は自由だ。髭を伸ばそうかと思ったが、生来の童顔にはおそろしく似合わないという自覚はある。誰も見ていないとはいえ、なんとなくためらわれて毎日剃ってしまうのは己の弱さだろうか。  多くの時間を過ごすことになる洞窟は過ごしやすいように地面をならし、切り倒した木で簡単な床や壁を作り、少し部屋っぽさを出したりと毎日忙しい。体力には自信があるが、これといった期限もない作業はのんびりと進められるので、なかなか進まないものだ。 「まあ、それも楽しいですしね」  おそろしく独り言が増えたのは仕方あるまい。独り言ですら、身にしみついた丁寧語が出るのが滑稽だが癖なのでこれも仕方がない。  今の所、寂しいなどとは思わないが、もう一人でも人手があれば色々はかどるのになあ、とは思う。その度に、鞄に仕舞い込んだ書物を出しそうになっては手を止めた。  城で厳重に保管する、とされたその書を持ちだしたのは、責任を取る為だ。 「あのまま死ぬ訳にもいかなかったですし」  魔王を倒したあと、キースと仲間達は大陸の王城に招かれることになった。王はいたくキースを気にいっていたのか「娘の婿になれ」と、つまりは将来の王位を約束までした。権力には興味もなく、それは丁重に断らせて貰ったが、世界の復興へと指揮をとる王の元で、しばらくは力を貸すこととなった。 「最初はよかったんですけどね」  キースと仲間達は各地で民に慕われ、浴びる程の感謝ともてなしを受けた。魔王を倒すまで、とても平穏とはいえない道だったが、溢れる笑顔を見ればこれまでの全ての苦しみが報われる気分だった。  けれど。  人というのは時に脆い。  キース達の人気を歓迎しないものが、城内部に現れ少しずつ事態は変わっていく。仲間達とは散り散りに離れた場所へと向かうように指示が下り、城からも遠く離れた場所で仕事を終えて戻ると、休む間もなく辺境へまわされる。それはさして苦痛ではなかったが、あからさまにキース達を拒むものがぽつりぽつりと出始めた。 『過ぎたる力を、人は歓迎しない』  そう言い残して最初から城に来なかった魔法使いの言葉を思い出した頃には、仲間達が一人、また一人と城から離れていった。

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