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勇者を辞める方法

 魔法使いの言い分は、キースにもよく分かった。  魔王という強大な「人の敵」を前にした時、人の中で秀でた力を持つキース達は「勇者」であったが、敵がいなくなってしまえば、ただの「強大な力を持つもの」である。次は彼らが「敵」になるのではないかと恐怖する脆さ、それが人の持つ性質でもあるのだ。  城を離れて、力を振るうこともなく平穏に暮らす、そうすることが最良に思えた。  けれど、キースにはそうできない理由があった。    城の最深部にはキースが魔王を封じた封印の書が隠されてあった。  キースが魔王を倒せず封じたというのは、世界大王会議に出席できる各国の王だけが知る秘密となった。封印が破られることは万に一つもないとキースは言いきれるのだが、それでも自分の目に届かぬ場所で保管されるのは耐えがたかった。  この国は魔王による被害が比較的少なかったので、王は自国の武力に誇りを持っていた。その誇りを傷つける訳にもいかず、城の最深部で見張りをつけて保管するという王の申し出を断れなかったのは、今考えても若気の至りとしかいいようがない。 「っていっても、あれから一年しかたってないんですけど」  居心地の悪くなった城で、けれどキースはなんとか一年を過ごした。ついに城を離れる決心をしたのは、出された茶に毒を盛られたと気付いた時だった。  生半可な毒などではキースを殺すことはできない。治療魔法も使えるからだ。けれど、もう限界だと思った。  ――このままここにいることで、皆の心がすさんでいく。  キースがいなければ、誰だか分からぬその人が毒を盛るようなことをせずに済んだだろう。それが酷く痛く、苦しかった。最初に迎えてくれた笑顔が嘘ではないと分かっているから尚更に。  キースは封印の書を偽物とすり替え手にしたあと、城から抜け出したのだった。  ぼんやりと海を見下ろしながら、その青を思う。 「あれの肌に似ている、かな?」  銀の長い髪に映える、薄い青。切り裂いたその下には、濃紺の血が流れていた。異形の者。人の敵。  キースの全力を、いつでも受け止め続けた者。  手加減などせずに剣を振るい、魔法力が枯れるまで呪文を唱えた相手など、他にいない。どうしても倒したかった。人を苦しめるなど許せない、それだけが理由ではなくなったのは、いつからだっただろうか。  こんな所まで持ってきた鞄に手をかけ、知らず封印の書を取り出していた。

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