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勇者を辞める方法
厚い革でできた表紙の、ともすれば学問書のようなそれには、キースが命を削って注いだ魔法力で編まれた呪文が刻まれている。魔王をつなぎとめる楔そのものだ。
城から持ち出したのは、倒しきれず封印という面倒な手を使ったことの責任を取る為だ。封印が解かれることはないだろうとはいえ、何かあってしまった時に魔王と対峙できるのは自分しかいない。それは傲慢ではなく事実だ。
――だから、持ち出した。
自分で管理した方がいいから、だ。
「貴方はここにいるんですね」
革の表紙を撫でると僅かに心がほころんだ。
――あの青が見……た……。
「いや、何を考えているんだ私は」
この手にあるのは罪そのものだ。人の敵を倒さず封印してとどめたという、大罪なのだ。これ以上罪を重ねることなどできるものか。けれど。
――どうせ魔力など尽きている……。
魔王の司る強大な魔力は、魔界から供給されていたらしく、魔界と人間界をつなぐ道が途絶えてしまったからには、尽きた魔王の魔力を補充できるものがない。人間界の魔法は、自然に存在する精霊から魔法力を借り受けるもので、魔力とは違う。
魔力のない魔王など、ただの異形にすぎない。
現に、キースが魔王を封じたのはお互いの体力も魔力を付きはて、体術のみで雌雄を決するという泥仕合の果ての結末だったのだ。
――完全に封印を解かない方法もある……。
――少し姿を見るだけ……。
あの青が見たい。
封印の書を片手に持ったまま、土の上に解除用魔法陣を描いたのは、半ば無意識だった。
海面に跳ね返る太陽の光のごとき銀色を見たい。
――ああ、魔王よ。
――貴方だけが私の全てを受け止めてくれた。
書が、解かれる。
キースはそっと解除の呪文を唱えた。
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