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封印失敗?
動かない核を見つめながら、意味もなく魔法力を注ぐ。やはり魔力の無い世界で魔王が生きるなどということは無理なのだろう。
キースの魔法力を帯びた灰が核を包み少しずつ形作られていくが、これはキースの魔法力が作り出した砂人形のようなもので「偽物」だ。
――それでも、いいか。
元々姿が見たいだけだと呟いたのだ。
自分自身の作りだした偽物でも、最早構わない。
灰はみるみる形を持ち、異形を作り上げる。見たかった薄青の肌が、光を跳ね返して艶めく銀髪が、ひるがえる。それから。
髪と同じ銀の目が真っ直ぐにキースをとらえた。
どこか戸惑ったような視線にキースはもう一度絶望する。
――ああ、やはり偽物だ。
魔王はこんな目をしない。常に人間を見下す氷の視線で、それが揺れるのはキースと剣を交わす時だけだった。ここにいる「魔王」はキースの妄想が生んだ灰人形でしかない。戸惑いの目はキースの戸惑いそのものを映したのだろう。
「あー……その、何と呼びましょうか」
額に手を当て思考するキースに、魔王が答える。
「キース」
「いや、それは私の名です。貴方の名を聞いてるんですけど」
答えられるはずもないと知りつつも、つい、会話の真似ごとをしてしまう。キースの作りだしたものが、キースの知り得ないことを知るはずもない。
「知らん」
案の定、魔王はそう答えた。
「では、今まで通り魔王と呼びましょうか」
自分は何をしているのだろうと思う。
それでも。
――やはり、美しいな。
その姿に見惚れながら、キースはそっと息を吐いた。
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