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封印失敗?
◇
草のベッドで目を覚ますと、離れた場所で洞窟の壁を背に、美しい異形が目を閉じている。状況を把握するのに呆けたのは一瞬で、キースはすぐに思い出した。
――ああ、魔王の灰人形を作ったんでしたっけ。
意思はあるように見える。キースの命令にばかり従う訳ではない。しかし、それもキースの知る魔王を再現しているのだとすれば納得だった。
――まあ。これで良かった。
本当に魔王の封印を解くということは、人間への裏切りだ。あの時は魔が差したか、どうかしていたとしか思えない。偽物で、よかったのだ。
キースが立ち上がると、魔王もそっと目を開く。銀色の眼に視線でとらえられて息を飲むのは、まだ慣れないからだ。偽物だと分かっていても、その眼に以前の強さを見てしまう。
「おはようございます」
なんでもない顔で声をかけると魔王は鼻をならして視線をそらした。
何故ここにいるのか、などは昨夜簡単に説明してある。灰人形とはいえ、意思を持っている魔王がここに留まることを選ばない可能性もあったので、封印はまだ完全に解いていないこと、魔力の無い世界で魔王が存在できているのは封印によってキースの魔法力を魔王に分け与えているからだということを説明してあった。
どうやらそれで納得したのか、魔王は取りあえずまだキースの側にいる。この偽物をどの範囲まで自分の支配下に置くことができるのかは、これからおいおい確認する必要があった。
「眠らなかったのですか?」
どれだけのコミュニケーションが取れるかも知る必要がある。昨夜はほとんど口をきかなかったが、その視線は常にキースへと向かっていた。簡単な挨拶程度の会話くらいはできるかと思ったが、今朝も魔王は黙ったままだった。
――これから、かな。
そんなことを思って、ふとおかしくなる。どうやら自分はこの偽物とこの場所で生きるつもりらしい。寂しかったから、というのは理由にならない気がした。
この隠匿生活――というのが正しいかは分からないが――をするにあたって、師匠である魔法使いには断られたが、キースを盲信する者は沢山いて、誘えば喜んでついて来る者はいただろうと思う。けれど、キースはそれを選ばなかった。側にいるのが誰でも良い訳ではなかったからだ。
――だったら。この男だったらよかったと?
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